ヨーロッパ通信・第三十一号
2009/02/02 ヨーロッパ特派員だより by Saeki Mihoko
ミニベビーブームに沸くフランス!(Part2)
~気合いで乗り切るフランス的妊娠・出産・子育て
全世界で経済危機や不況が騒がれるというのに、現在のパリは出産ラッシュのようです。
新年のニュースでも次々に産声を挙げる産院の様子が取り上げられていました。

私の周りでも昨年はおめでたニュースがあちこちから聞こえてきました。
先日もこんなことがありました。
自宅でパーティを開催した時、私の「何飲みたい?」に、普段なら決まって「まずはシャンパンをちょうだい!」と声を上げる大酒飲みの友人Cから「うーん、ガス入りのミネラルウォーターある…?」なんて拍子抜けの返事に目が点となった私。
どこか体の調子が悪いのかと真剣に問うも「今日はお酒を飲みたい気分じゃないの」とCは言い放つのです。
また別の日には、毎年11月に開催される恒例のH&Mと有名デザイナーがコラボするコレクション(今年はなんと川久保玲のコム・デ・ギャルソンだった)は必ず朝6時には行列ができるが、そのトップは必ず彼女って言うくらいモードが大好きで、スタイリストでもある友人のIが、今年は「寒いからおうちでゆっくりしていたい」と言いました。
また冬のスキーを毎年一緒に過ごすMからは、
今年は「実家の暖炉の前で丸くなる予定」という。
「猫じゃないんだから!」と説得しても頑として聞こうとしません。
「みんな一体どうしちゃったの?」
それぞれが仕事をし、結婚していたりしても、なによりも女同士の遊びに命をかけていたはず。
そんな仲間達が次から次へと”卒業”していったのです。
そうです、皆、妊娠していたのです。
しかも数人がほぼ同時期に妊娠したのですから驚きでした。
この時から私たちの間には、お酒を飲む、またはタバコの害がある場所には行かないなどの遊びのルールが出来ました。
その代わり、オーガニックの野菜が食べられる可愛いカフェ、演劇や映画により頻繁に行くようになり、ホームパーティを積極的に開くようになりました。
“花の独身生活の終わり”にはちょっと後ろ髪引かれる思いもあるけれど、それぞれがパートナーを見つけ、子供を授かり、生活スタイルが自然に変化していく。
それはそれでとても幸せなことだと思いました。
実はかくいう私も多分にもれず春先にママになる予定です。
フランスでの出産は未知なる出来事。
文化や価値観、医療制度の違いもあり、疑問や不安で一杯ですが、同時に驚きと希望にあふれた毎日を過ごしています。
しかしパリの妊娠生活は想像以上にハードなものです。
まず妊娠が分かってすぐに先輩妊婦から”おめでとう”の前に言われた事があります。
それは出産する病院の予約をすることでした。
そう、ミニベビーブームのためパリの病院はどこも数年先まで予約で一杯の状態。
何年も先?!と思われるでしょう。
そうなのです。
将来的に子供を作ろうとしているカップル達などがすでに予約だけでもと殺到しているからなのです。
それを知った日からはもう必死です。
朝から晩までありとあらゆる産院に電話をかけ続けました。
2週間後、やっとのこと「1件キャンセルが出たから部屋を確保しました」との返事をもらった時は体の力が抜けました。
産院だけけなく、産婦人科医や麻酔医(7ヶ月目まではかかりつけ医は産院ではなく一般医)との予約、エコグラフィー、全てのステップで異常なまでの執着心が必要です。
日常生活レベルでは、生活には欠かせないメトロは困り者です。
まずエスカレーターやエレベーターが設置されている駅が少なく、上り下りは毎回必死です。
以前は気にならなかったメトロのあの独特な”ニオイ”にも正直参りました。
また、”妊婦に優しいパリジャン”は想像上のお話だったようで(!?)、優先席であっても席を譲って欲しいときは自分からはっきり言わなければなりません。
何に対しても自己を主張しなければならないので少し疲れてしまいます。
食事も初期は食べられる物が限られていて、日本食が恋しくても簡単に食べられませんので、何度もコンビニエンスストアに行く夢を見ました。
一時はグレープフルーツしか食べたくなくて、毎回棚ごと購入する私に近所の果物屋さんもびっくりでした。
また3週間に1回の定期検診は毎回ドキドキです。
最初に検診に行った時のこと、待合室に入るとそこにはほぼ全裸、下半身裸、パンツ一枚のパリジェンヌ達が歩き回っていたのです。
検診後何かの検査結果を待っていたり、体重を測るために順番を待っていたりだと思うのですが、正直空いた口がふさがりませんでした。
裸だけどなにか悪い?とでも言われているような気分になりました。
診察台もカーテンで仕切るなんて配慮は全くないし、看護士やら事務員やらから丸見えなのです!!
産院によっても大分違うのでしょうが(そう願う)妊婦に気を使うなどのデリカシーはこの国にはないのかと、カルチャーショックでした。
出産に関しても、無痛分娩は序の口、帝王切開も非常に多く(医者が少なく、担当医も早く家に帰りたいので特に土日が多い!!)、医療機器や陣痛促進剤に頼った分娩が当たり前なのです。
日本の”なるべく自然に産む”という考え方からはかけ離れていて驚く事ばかりです。
が、ここ数年でしょうか、少しでも自然に産みたい、育てたい、と思うパリジャンが増えてきたのは。
公立ではまだ見当たらないけれど、カンガルーケア、アロマテラピー、母乳奨励、水中出産(希望があれば自宅出産も可能)など、計画分娩をできるだけ避け、陣痛促進剤などの薬をなるべく使用しない、などといった方法をうたい文句にする私立の産院がでてきました。
まだまだ一般的ではありませんが、ネットなどで調べてみると、こういった産院もかなり予約が取りにくいとのことで、もっときちんと調べるべきだったと反省しました。
子育てについては、フランスでは子育ての神様と崇められる”フランソワーズ・ドルト”(フランス人の幼児精神科医)のドルト方式が多くの親の手本と言われてきました。
「子供は一人の人格を持った人間、”子供扱い”はしてはならない」と唱え、誕生時から個室を与え、就寝後は泣いてもあやしに部屋に入らない、などなどラディカルなのです。
子供との距離が近い、または子供が生活の中心になる日本などでは考えがたい話ですが、多くの家庭でこの方法がとられてきました。
しかし最近ではアンチ・ドルト派と呼ばれる、全く逆の方法をとる親達もいます。
あるアンチ・ドルト派に話を聞いたら、フランス人独特の”哀愁感”(生活には充実しているのにどこか寂しい、満たされない思いがある)はこのドルト方式が原因だと思う、とのこと。
本当かどうかは分かりませんが、私も一時フランス人がすぐにカップルになりたがる(ただ単に恋愛好き?)のはドルト方式が関係しているのかも、と考えた事がありました。
赤ちゃんの身の回り品については、体に良いものを求める声が非常に高まり、オーガニックコットンを使用した肌着はもう定番。
大手スーパーでも取り扱われ大人気です。
ベッドカバーやマットレスも自然な素材を利用したもの、おもちゃも塗料などが大きな社会問題になり、かなり神経を尖らせて商品選びをしています。
使い捨て紙おむつがやはり主流ですが、値段も高いし、エコロジックでないと、様々なメーカーが洗濯可能なおむつを開発しています。

カラフルでデザインも可愛いので気負いなくチャレンジできます。
フランスは伝統的におばあちゃんが手編みをして靴下やカーディガンを作ってくれるのです。
肌にももちろん優しいし、何よりおばあちゃんのその気持ちが有り難いですよね。
自分自身が妊娠してみて、フランス女性の”強さ”を再認識しました。
母親学校や産院で普段は出会わないような様々なカテゴリの妊婦さんと沢山知り合いました。
人種も違うけど、1つだけ皆に共通している事がありました。
いくらフランスが女性の社会進出が当たり前と言っても、多くの女性が最も大切にしているのは”家族”だったことです。
好きな仕事をとことん追求するバイタリティーも、パートナーとの関係も大事にする女性らしさも、”自分の人生は自分で切り開く”という凛とした考えの上に成り立っています。
言葉で言うのは簡単ですが、社会制度だけでは片づける事ができない、会社内でのプレッシャーや、キャリア上の遅れなど、実際は体力的にも精神的にも非常に厳しいと思うのです。
そこを、子供が欲しいから私は産む。
そう決めたからには最大の努力をする、と笑顔で真っ向から立ち向かうその姿は勇敢でもあります。
そんな女性達が輝いている限り、フランスの出生率は伸び続けるのだろうと思います。
■大好きなパリらしい子供服のブランドをいくつか紹介します。
ZEF(http://www.zef.eu/ パリの子供服と言えばZEFでしょう)
OVALE(http://www.ovale.com/ パリジェンヌの憧れ)
PETIT BATEAU(http://www.petit-bateau.fr/ 言わずと知れたブランド、プレゼントに最適)
JACADI(http://www.jacadi.fr/ BCBGママに大人気の老舗ブランド)
■オリジナルに富んだお洋服やグッズがもりだくさん。無名から有名子供服デザイナーの商品がネットで購入できます。是非のぞいて見て下さい。
http://www.littlefashiongallery.com
■スキンケアは赤ちゃんのお肌に優しいのもでなきゃダメ。
シャンプー、ボディーシャンプー、保湿クリーム、ベイビーマッサージオイルまで、頑固にオーガニックにこだわるパリジェンヌ。
妊娠中・出産後はなにかと敏感になるママのお肌にも、数あるお勧めブランドからピックアップしてみました。

Cattier(オーガニックショップなどではすでにベイビースキンケアの代表格。とにかくお肌に優しくて、ほんのりした香りでベベもママもリラックスできる)
Melvita(http://www.melvita.com/ マッサージオイルには定評があり、妊娠線用オイルやベベ用マッサージオイルは大人気)

Weleda(http://www.weleda.fr/fr/les-produits/la-maternite/ 自然派コスメのパイオニアと言っても過言ではない程有名だが、やはり良い物は良い。基本中の基本である妊娠線用オイルはパリジェンヌからも大変信頼を得ている。)

Avene(http://www.eau-thermale-avene.com 言わずと知れたAveneにはベベ用スキンケアも充実している。パリジェンヌが困ったときの駆け込み寺的存在だ。)
■ミニベビーブーム支える縁の下の力持ち、フランスにおけるいくつかの重要な社会的要素についてお話し致します。
-社会制度-
世界に誇る(!?)フランスの社会制度。
基本的な出産費用は社会健康保険が全て負担してくれます。
もちろんこれは公立病院での出産&社会健康保険機関から指定された産婦人科医を選択した場合で、実際は、私立の産院で個室を希望、とか、エコグラフィーも義務である4回以上受けたい、等々と欲が出てくる。
その場合は個人負担になるし、お値段は目が飛び出す程高かったりする。
こういったプラスのサービスを受ける場合は、ムチュエルと呼ばれる共済保険もしくは相互保険会社に加入し、社会健康保険対象外の部分をカバーしてもらう。
これは任意なので妊娠を計画されている人は前もって(最低6ヶ月)加入しておいた方が良い。
それから、妊娠中の病院と契約するフリーランスの助産婦との母親・父親学校の費用も8回までならカバーされるし、出産後のリハビリ経費や、妊娠・出産が原因で引き起こされるあらゆる疾病(腰痛、妊娠性糖尿病等々)治療費ももちろん対象内だ。
もっと言うと、妊娠中に医者からドクターストップを言い渡された妊婦は仕事を休まなければならないが、この時の給料(給料の70%程になってしまうが)は勤め先の会社ではなく社会保障から支払われる。
妊娠7ヶ月以降に受ける出産手当金は収入制限があるものの900ユーロ弱が支給されるため、ベベを迎え入れる準備を心穏やかにすることができる。
また財源もとが企業の負担金で運営される、家族手当金庫(CAF)だが、家族給付金は0歳から3歳まで172ユーロが支給される。
それ以降は第2子から一律に支給される児童手当は月120ユーロで子供が20歳になるまで続く。(第3子からは月274ユーロとなり、片親や単身などの家族構成などによって補足手当がでる。)
これらの手当金は世帯収入合計で制限があるものの大変心強い。
また充実した出産・育児休暇だが、出産前後に取る出産休暇は合計16週間で、休暇前の給料が100%保障される。
また父親にも2週間(土日含む)与えられるが給料保障は60%程となる。
また法律上、妊娠や出産を理由に解雇は出来ないため、安心して休暇を取る事ができる。
-妊娠・出産に対する考え方-
男女混合のフランス社会では、出産・子育ては二人三脚が当たり前である。
男女とも働き盛りであるその期間は、子育ての期間でもある。そのため、母親の少しでも早い社会復帰が産後の一番の課題となる。
そのため産後のケアも非常に厚いのだ。
その例として、フランスは産後の回復が大変早い、無痛分娩がほとんどである。
もちろん保険でカバーされる。
自然分娩を希望する人(全体の10%弱だが殆どがアレルギーなどの医療上の理由がある)は、逆に対応可能な産院を選ばなければならないほどだ。
そもそも”良い母親像”というものがないので、苦しんで産まなければならない、母乳で育てなければならない、という暗黙のルールに縛られる事がない。
母乳にしても産後3ヶ月で会社に復帰する時には薬を飲んで母乳を止める母親が多く、授乳期間は平均して1ヶ月とのこと。
中には私のおっぱいは”おっぱい”ではないと主張し、母親よりも女性であることを選ぶフランス女性も少なくない。
日本の”良い母親”かフランスの”女性としての魅力”かどっちかと言われると、両方良い面があってその反対の面もあるので、正直選びきれませんが、私の場合は的便適所で両方の良い部分を取り入れられたらと思っています。
-子供の保育&学校制度-
子供を持つ=妊娠・出産と思われがちですが、これはたった1年弱の出来事でしかなく、あとに続く子育ては非常に長い道のりなわけです。
産休終了後、子供が保育学校に通い出す3歳まで仕事を一時的に中断する(もしくはパートタイム)産休延長も可能だ。
それは育児休暇と呼ばれ、月の援助額は500ユーロ強、パートの場合はその率によって変化する。
もちろん以前の収入に比べれば高給取りだった人には援助と呼べる額ではないものの、失業中であるのと、休暇延長中というのはステイタス上意味が全く異なるのだ。
もし、産後も働き続けるのであれば、保育所に子供を預けなければならない。

というのも個人主義のフランス、いくら可愛い孫のためであっても母親や義母が子供を終日みてくれる、なんて甘い考えは存在しない。
働くママが多いフランスには幸いにも多様な保育形態が存在する。
まずは自治体が運営する公立の集団保育所。
値段も安価で、月曜日から金曜日まで朝から晩まで預かってくれるし、乳幼児専門の看護士、教育士、などに囲まれ環境も良い。
しかしながら子供の数に対してどの自治体も慢性的な施設不足だ。
そのため入園までの道は狭き門、超難関校のお受験並みだ。
まず妊娠が分かったらすぐに自治体に問い合わせ、仮登録の予約を取る。

自治体によっては妊娠6ヶ月以降でなければ仮登録さえも受け付けてもらえない。
自治体の責任者との面接があり仮登録を済ます。
次に書類審査があり、最後に園長との面接がある。
ダメもとでとにかくしつこくアタックすることが大切。
毎日のように園長に電話をするのは序の口、中には面接中に泣きわめくなどの演技をする母親もいるのだとか。
基本的に両親共働きなこと、収入が少ない事、保育園にどうしても入れるだけの理由があるなどが考慮される。
次にポピュラーなのは認定保育ママで、個人で雇うか、他の家庭と共同で雇う事も可能だ。
保育ママの自宅か自分の自宅に来てもらう。
これは時間にある程度融通がきくけれど、保育ママとの相性、または、夏休み時期などは保育ママの都合で決定されることが多くなかなか大変だ。
これら以外にはアソシエーションが数人の保育ママを雇う家庭保育所や、登録をしておけばいつでも好きな時に預ける事ができる一時保育所などがあるが公立が少なく値段は高い。
学校教育は2歳半から始まる。
その後は公立教育ならば大学卒業まで無償なので、とにかくそれまでどうにかして頑張るのだ。
このミニベビーブームを傍目に友人Bが言った。
「まだ彼氏も居ないけど、将来子供欲しいから公立保育園の予約だけは今からしておくわ」。
-結婚に対する考え方-
前号でもお伝えしたように、フランスで産まれた子供の半分は結婚していない両親の下に産まれている現状がある。
これには、戸籍や姓などの問題が全くなく、結婚していなくても家族手当や保育施設、職場での扱いも同じ、社会的立場が変わらないから、純白ドレスに憧れる夢見る少女以外、結婚しないのかもしれない。
これは冗談として、そういった事実婚を続けるカップルに結婚とほぼ同様の権利を与えるPACS(市民連帯契約)が1999年に登場した。
税金申告も夫婦のように共同で、住居、社会保障などもほとんど結婚しているのと同様だ。
性別関係なく、恋愛関係の有り無も関係ないので、現法律では同性の結婚を認めないフランスで、沢山の同性カップルがこのシステムを利用した。
結婚と違うのは唯一別れる時である。
片一方が別れたいと望んだ時点で契約は解消になるのだ。
結婚とPACSの比率は現在5対1であるが、PACS数が今後も伸びていくであろう。



