ヨーロッパ通信・第三十六号

2009/08/16 ヨーロッパ特派員だより by Saeki Mihoko

フランスにおける化粧品広告の歴史・後半

〜広告が変わるとき。80年代から現在まで〜

宣伝広告からイメージ広告の時代へ

広告は時代を写し出す鏡です。広告を考える時、それは社会を考えているのと同じ事と言えます。80年代は広告の基本が激変した時代です。90年代にはインターネットという新しい媒体も加わり、世の中が一気にスピードアップしました。純粋な商品の宣伝から、商品やブランド名を見た消費者が、イメージを彷彿させることを目的としたイメージ広告へと変化しました。スタイルは、80年代はシンプルなキャッチコピーとビジュアルが脳裏に焼き付くタイプの広告が世の中を旋風し、よりインパクトのあるビジュアルを使用し、オリビエロ・トスカーニのベネトン広告に代表されるような、強い刺激を与えた広告が讃えられるような雰囲気があったのは90年代の広告です。90年代後半にはメンズコスメが市場に登場し、黒人モデルなどの有色人種が化粧品広告に起用されるようになりました。そして21世紀に入ると時代は環境保全に人々の関心が向かい、化粧品もよりナチュラルなものが好まれるようになりました。

 

オリビエロ・トスカーニによる、過激化する広告

80年代と90年代の広告の違いは、化粧品広告ではありませんが、イタリアの服飾メーカーであるベネトン社の広告(※1)が良い例でしょう。80年代前半はベネトンの服を着た様々な人種や年代が一同に集う平和的な写真などが主要でしたが、後半は写真家・広告ディレクターのオリビエロ・トスカーニ氏による、社会問題にもなった鮮烈かつ強烈な広告の数々です。ベネトンの商品自体は登場せず、一枚の写真からその時々の社会問題を我々に訴え、社会的メッセージを送りました。それは広告のあり方さえも考えさせられるものでした。大量に出回っている印象のあるこの一連の広告ですが、実はメディアへの露出は高くないものの、非常に余波力のある広告でした。

 

メンズコスメの登場

80年代に入るとそれまで女性中心だった化粧品業界に、男性向け商品が次々と登場します。代表的なのは85年にフランスで初めてメンズのフルラインとして発売されたビオテルム(※2)です。ビオテルムは現在も男性用化粧品のパイオニアとして世界中およそ70カ国で愛用されています。肝心の商品ですが、さらりとしたテクスチャー、シンプルでかっこ良いパッケージ。当初のチャッチフレーズは「若い肌を保ちたいのなら、毎日30秒だけ。」広告はプロのモデルを起用する事は殆どなく、男性が憧れる実物に存在するパーソナリティーを起用。例えば最近では、ラグビーフランス代表メンバーであるフレデリック・ミハラク。また、87年には、ファーマシーブランドのヴィシー(※3)がメンズコスメをスタートさせます。ヴィシーの欠点と言えば、優等生的イメージがついてまわることでしたが、ボトルをはじめ大胆なデザインチェンジを試みています。黒いボトルに赤いブランドマークで、オシャレな男性のシャワールームにあっても違和感がないことがコンセプト。パッケージがオシャレだと評判なのは、ジバンシー・メンでしょうか。漆黒色の本体にキラキラしたトルコブルーのライン。使用感はアルコール度が高いことから、敏感肌には向かないようですが、塗ったとたんに肌に吸収され、長時間しっとり感が続くとのことです。ネックはそのお値段。コストのかかるブランディング広告は結果、商品プライスに上乗せされているということです。

ヴィシーオムの新ボトル

進化し続けるマスカラ

80年代に比べて、コスメの中でも大きく技術革新されたのは、マスカラではないでしょうか。フルメイクをあまり好まないパリジェンヌも、マスカラだけは日々欠かしません。落ちない、ダマにならない、持ちが良いのに簡単なオフ、ボリューム感もカール度もアップして…。世の中の女性の要求は増々厳しく、ブランド間の競争も増々熾烈になり、次から次へと最新の技術があの細いスティックに注ぎ込まれています。広告はそれと同時に極端なまでに誇張され、最近では、広告基準公団とのつけまつげ論争が起こる程です。

マスカラ広告1

ブラック・イズ・ビューティフル

白人モデルが主要だった化粧品広告に初めて黒人女性が大々的に登用されたのも90年代からです。まさにブラック・イズ・ビューティフル時代の幕開けです。国籍を超えて活躍する有色人種のモデル達の中でもとびきりにスターだったのは、黒人モデルのナオミ・キャンベルです。黒人として初めてフランス版ヴォーグの表紙を飾りました。彼女の成功は自身の多大な努力の他に、昨年亡くなったデザイナー、イブサンローラン氏の姿があります。プレタポルテを生みだし、初めてランウェイに有色人種を起用したサンローラン氏はモード界だけでなく、全世界にメッセージを送りたかったのではないでしょうか。有色人種を起用した化粧品広告では、ロレアル社が82年に買収したメイビリンが代表的です。ニューヨークの流行に敏感でコスモポリタンなティーエイジャーを表現するのに、ジェシカ・ホワイトなどの黒人モデル起用は外せない選択だったようです。

黒人モデルのロレアル広告

地球に優しいコスメの時代へ

21世紀に入ると人々の関心は大きく「環境保全」へと動きます。健康と美容に注意する人が増え、それに従い環境や体に配慮した化粧品が多く求められるようになりました。ロレアル社はまず、2000年に創業1851年のナチュラル系化粧品のパイオニア、キールを買収します。キールは歴史のある自然派コスメの老舗です。自然の原料と最小限の防腐剤のみを用いて、新鮮さと肌への優しさに徹底的にこだわっています。その後は、ザ・ボディーショップ(※4)、サノフロール(※5)、ピュアオロジー(※6)と立て続けに買収。化粧品広告も世の中を反映するように「癒し」「地球に優しい」などのフレーズが使用されるようになりました。

※ 1広告はトスカーニのサイトに掲載:http://www.olivierotoscanistudio.com

※ 2ビオテルム・オム:http://www.biotherm.fr/_fr/_fr/men/index.aspx

※ 3ヴィシー・オム:http://www.vichyhomme.com

※ 4ザ・ボディーショップはもう言わずと知れたイギリスのブランドですが、化粧品の動物実験反対に代表される「ナチュラル哲学」を創業時から変わらず守り続けています。

※ 5サノフロールはフランスのナチュラル系コスメに特化したラボラトリーです。オーガニックコスメの研究と製造のため、CNRS(フランス国立科学研究センター)やリヨン大学などの研究者と共同で開発しています。

※ 6ピュアオロジーはアメリカの高級ヘアケアブランドでオーガニックでもあります。洗い流さないトリートメントなどが有名です。

*佐伯美帆子さんのプロフィール*

10代でパリに移住。日本に帰国後は広告代理店などに勤務するかたわら、翻訳やライター活動を行う。フリー転向を機に再度パリに居を移す。現在は雑誌等のコーディネーションやリサーチ、ライター活動を主に行うが、パリ大学(社会学部)への復学を目指して勉強中の身でもある。趣味はパリ中の美味しいバケットを食すことと人間ウォッチング。


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